かつての日本では――
たとえ家に、もう数日で息を引き取るかもしれ
ないおじいちゃんやおばあちゃんがいたとしても、
「死ぬ」「葬式」「お別れ」などという言葉は
口が裂けても言ってはいけないとされていました。
「縁起が悪い」
「そんなことを言ったら本当に死んでしまう」
「不吉だ、黙っておけ」――
そんな時代が、確かにありました。
⸻
■「死」は口にしてはいけないものだった
家族の中で“死”を話題に出すこと自体が禁忌と
され、本人も周囲も、あえてその話題を避ける
ことで、まるで「死なないかのように」最期の
時間を過ごしていた。
しかしその結果、誰にも看取られずに亡くなる人、
葬儀の準備ができていない家族、思いを伝えられ
なかった遺族たちが増えていったのも事実です。
⸻
■時代は変わった。「話す」ことが当たり前に
今、世の中は少しずつ変わり始めています。
テレビやネットでも“終活”という言葉が広まり、
自らの最期をどう迎えるか、どんな葬儀にして
ほしいかを元気なうちから話し合うことが
「普通」になってきました。
最近では、病院や施設で本人がこう言う場面も
珍しくありません。
「お葬式は家族だけで、静かにしてくれたら
いいよ」
「無駄なお金は使わず、シンプルでいいから」
「お経より音楽を流してほしいな」
「遺影はこの写真がいい」――
それは、自分の最期に責任を持つ、ということ。
同時に、残された家族に「後悔させないため」の
優しさでもあります。
⸻
■「死」を語ることは、生を大切にすること
“死”という言葉は、決して不吉でも、怖いもの
でもありません。
それは誰にでも訪れる「人生の終章」であり、
生きている今をどう大切にするかを考える、
きっかけでもあるのです。
「死を話すのは縁起が悪い」という考え方に
縛られて、思いを伝えられないまま別れを迎える
方が、よほど悲しい。
だから私はこう伝えたいのです。
⸻
■「死」を語ろう。あなたのために。家族の
ために。
あなたが今、親や配偶者、そして自分自身の“
もしも”を考えているのなら、それは決して
後ろ向きなことではありません。
それは、命を大切にする準備であり、愛の形
なのです。
昔はタブーだったかもしれません。
でも今は、口に出していい時代です。
ぜひ、あなた自身の言葉で、「ありがとう」
「ごめんね」「こうしてほしい」
そんな思いを、大切な人と話してみてください。

感謝。