以前、自宅近くのコンビニの駐車場での
出来事です。
目の前を、10代後半から20代前半くらいの
若者が肩で風を切りながら歩いていました。
鋭い目つきで、すれ違う人をじろじろと見ながら
店内へ入っていきます。
正直、心の中で「なんだか柄が悪いなぁ」と
思ってしまいました。
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しばらくして、その若者は店から出てき
ました。
手に持っていたのは、たった一つの花束。
“あれ? 彼女にでも渡すのかな?”と思いながら
見ていると、相変わらず肩で風を切って歩くので、
花びらがヒラヒラと落ちていきます。
その様子に思わず「ぷっ」と笑ってしまいました。
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ところが、よく見るとその花束はカーネーション
でした。
…あっ! 今日は母の日だったんだ。
その瞬間、背中に鳥肌が立ちました。
彼は、照れくさそうに、そして不器用に、
お母さんにプレゼントを買いに来ていたのです。
きっとお母さんの手元に届くころには、
花びらも散って、茎も折れてしまっている
かもしれません。
でも、それでもお母さんはきっと、笑顔で
受け取るでしょう。
「ありがとう」って。
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私は車の中で、その後ろ姿にそっと言いました。
「ありがとう。そして、ごめんね。」
母の日すら忘れていた自分を恥ずかしく思い、
その足で母の眠る墓へ向かうことにしました。
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誰に見せるでもなく、飾るでもない、
あの青年の不器用な優しさに、
一輪の花よりも美しい“心”を見せてもらった
気がします。
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一生忘れられない母の日をくれた彼に、心から
感謝。

感謝。