数年前、ご主人を送られた奥様がいらっしゃい
ました。
その奥様は、まるで「ありがとう」が口癖の
ような方でした。
会葬に来られた方々一人ひとりに、
「ありがとうね〜、ありがと、ありがと」と、
何度も何度も繰り返され、私たちスタッフにも
同じように、やわらかい笑顔で「ありがとうね〜」
と声をかけてくださいました。
その姿が、今でも心に残っています。
誰にでも分け隔てなく感謝を伝えるその優しさ。
まるで「ありがとう」という言葉で、周りの
人たちの心を包み込んでおられるようでした。
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それから数か月後、一本の電話が鳴りました。
ご葬儀のご依頼でした。
お迎えのために病院に伺うと、そこに安らかに
眠っておられたのは、あの「ありがとう」の
奥様でした。
ご親族の方からお聞きしたところ、本当は奥様の
ほうが先に亡くなるかもしれないと医師に
告げられていたそうです。
それでも、ご自身の体よりも先に、ご主人を
見送られたのだと伺いました。
自分の死期を知りながらも、人に優しく、感謝を
伝え続けていたその生き方。
思い出すたび、胸の奥が締めつけられます。
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ご納棺のお手伝いの時、奥様の寝顔を見つめ
ながら、私は心の中でこう呟きました。
「こちらこそ、ありがとうございました。
あなた様から本当に大切なことを教えて
いただきました。」
そのお顔は、まるで今にも「ありがとうね〜」と
語りかけてこられるような、やさしい微笑みを
浮かべておられました。
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人は誰しも、いつかは旅立つ時が来ます。
その時に残るのは、地位でも財産でもなく、
「どれだけ人にやさしくできたか」ということ。
あの奥様が最後まで伝えてくださった
“ありがとう”という言葉は、今も私の胸の中で
生き続けています。
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あなたのやさしさに、心からありがとう。

感謝。