大手互助会に在籍していた若かりし頃。
私は、互助会の営業として地域を一軒一軒
まわる日々を送っていました。
真夏の炎天下、スーツに汗をにじませながらの
個別訪問。
ピンポンを押しても反応がなかったり、
インターホン越しにお断りされるのが当たり前。
門前払いばかりで、心が折れそうな日もあり
ました。
そんなある日、あるご婦人が玄関を開けて
こうおっしゃったのです。
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「以前、うちの主人の葬儀でお世話になったの。
あの時ね、今日のあなたみたいに訪問された
ことがあって…
すでにうちは会員だったから、勧誘はされ
なかったんだけど、“もしもの時の流れ”を
すごく丁寧に教えてくださってね。
その親切が心に残ってて、その方のおかげで
いざ”のときはおたくにお願いしようって、
私、決めてたのよ。」
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私は一瞬、言葉が出ませんでした。
きっとその訪問をしていた営業マンは、その日、
契約ゼロだったでしょう。
数字にすれば「成果なし」と記録されていた
かもしれません。
でも、実際は違ったんです。
その“ひと手間の親切”が、お客様の心を動かし、
数年後の大切な“その時”に、確実に結果として
結びついていた。
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あの日、私は営業の本質を学びました。
数字では計れないことが、実は一番、数字に
つながっている。
「誠実」「丁寧」「人の心に残るふるまい」
――それはすぐには結果にならないけれど、
必ず誰かの記憶の中で生きて、いずれ“信頼”と
して返ってくる。
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今、私は自分の葬儀社を経営しています。
そして、日々お客様と向き合う中で、あの夏の
思い出が何度もよみがえります。
数字を追いすぎず、でも、数字の先にある“
人の気持ち”を信じて動く。
それが私の、今でも変わらない営業スタイルです。

感謝。