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人が一人亡くなっても、信号は青になる

葬儀の仕事をしていて、ときどき不思議な

気持ちになることがあります。

大切な人を亡くされたご家族にとって、その日

は人生がひっくり返るほどの一日です。

昨日まで当たり前にいた人が、もういない。

いつもの椅子に座る人もいない。

いつもの時間に帰ってくる人もいない。

家の中の時計だけが、止まってしまったように

感じることでしょう。

ところが、一歩外に出ると、世の中は何事も

なかったように動いています。

道路には車が走り、スーパーには買い物客が

並び、学校帰りの子どもたちが笑いながら

歩いています。

そして、交差点の信号は、いつものように

赤から青に変わります。

誰かにとって人生で最も悲しい日でも、誰かに

とっては何でもない普通の一日なのです。

私は、この現実を少し残酷だと思うことが

あります。

こんなに悲しいことが起きているのに、

どうして世の中は平気で動いているのだろう。

そう感じるご家族もいらっしゃるかもしれ

ません。

しかし、長年この仕事に携わるうちに、私は

別のことも考えるようになりました。

もし、誰かが亡くなるたびに世の中のすべてが

止まってしまったら、私たちは生きていけ

ません。

誰かが泣いているとき、誰かは笑っています。

誰かが生まれたとき、誰かは亡くなって

います。

誰かにとっての記念日が、誰かにとっての命日

になることもあります。

それぞれの人生が、同じ時間の中で

重なり合っているのです。

そして、もう一つ。

私たちは普段、街ですれ違う人がどんな事情を

抱えているのか、ほとんど知りません。

笑顔で接客している店員さんが、昨日、大切な

家族を亡くしたばかりかもしれません。

いつも無口なご近所の方が、誰にも言えない

悲しみを抱えているのかもしれません。

信号待ちで隣に立っている人が、病院から余命

の説明を受けた帰りかもしれません。

人の悲しみには、名札がついていないのです。

だからこそ、私は思います。

人に接するとき、ほんの少しだけ想像力を

持ちたいと。

相手の事情をすべて知ることはできません。

けれども、知らないからこそ、優しくできる

こともあるはずです。

葬儀が終わり、ご家族をお見送りしたあと、

私たちもまた普段の仕事に戻ります。

電話が鳴り、次の予定を確認し、いつもの

一日が続いていきます。

それでも、ほんの数時間前まで、人生で最も

つらい時間を過ごしていたご家族が

いらっしゃったことを、忘れずにいたいと

思います。

明日も信号は青になります。

街も、人も、時間も動き続けます。

でも、その当たり前の日常のすぐ隣に、誰かの

悲しみがある。

そのことを知っているだけで、私たちの人への

接し方は、少し変わるのではないでしょうか。

感謝。


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